税理3月号への掲載記事

資産税実務

OAG税理士法人
税理士 奥田周年
税理士 林由美

■はじめに

相続税の申告書の提出期限は被相続人の死亡後10か月以内とされている。遺産の分割が決まらない,遺産額力確定しない場合であっても10か月以内に申告書を提出し納税する必要がある。10か月の間に決まらない、確認できないことが多ければ多いほど申告後のトラブルも多くなる。そのトラブルを人的なものと物的なものに分けて解決策,防止策を含めて事例検討する。


■人的トラブルとその解決策

相続税の申告後に起こりがちな人的トラブルの多くは、遺産分割が関係する。そこで、まず、遺産が未分割の場合の申告方法(課税価格の計算)について説明をした上で、トラブル事例を説明する。

1. 遺産の全部又は一部が未分割の場合の申告方法

①概要
遺産の全部又は一部が未分割の場合は、その未分割の財産について、各共同相続人又は包括受遺者が、民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って取得したものとして相続税の課税価格を計算する(相法55)。

民法の規定による相続分は、法定相続分(民法900)、代襲相続分(民法901)、指定相続分(民法902)、特別受益者の相続分(民法903)をいい、寄与分(民法904の2)は除かれる。

なお、未分割の債務については、法定相続分(民法900)、代襲相続分(民法901)、指定相続分(民法902)又は包括遺贈の割合に応じて負担したものとして課税価格を計算する(相基通13-3)。

②具体的な計算例
相続人は、子であるA、Bの2人で、遺産額2億円、Aは5,000万円の遺贈を受け、Bは相続開始2年前に5,000万円(相続開始時は4,000万円)の上場株式の贈与を受けていた。この場合の課税価格は、以下のとおりとなる。

①みなし遺産…2億円+4,000万円*1=2億4,000万円

*1 Bが生前贈与を受けた上場株式を相続開始時にすでに売却している場合であっても、相続開始時に原状のままであるものとする(民法904)。

②Aの課税価格
(イ)2億4,000万円×1/2-5,000万円=7,000万円(未分割財産)
(ロ)5,000万円(遺贈財産)
(ハ)合計1億2,000万円(課税価格)

③Bの課税価格
(イ)2億4,000万円×1/2-4,000万円=8,000万円(未分割財産)
(ロ)5,000万円(生前贈与加算)
(ハ)合計1億3,000万円(課税価格)

2. 相続人に納税資金のない状況で未分割申告をした場合

①納税完了までの流れ
相続税は、金銭一括納付を原則とし、申告期限までに金銭納付が困難なときに、担保提供を条件に延納が認められる。

未分割財産は、相続人全員の共有財産となるが、相続人間で所有権を争っている財産は担保として不適格になる(これを延納の担保として提供する場合は、相続人全員が担保提供に同意する必要がある)。

また、延納でも納付が困難なときに、土地などの相続財産をもって物納することが認められるが、未分割財産は,所有権の帰属について争いのある財産として物納不適格財産とされ認められない。

相続人に納税資金がない場合、延納を検討するが、相続人に延納の担保として提供する財産がないときは、未分割の相続財産は担保として不適格なため、延納が認められない。

申告期限までに納付ができないときは、申告期限の翌日から2か月以内は原則年7.3%(現在は特例率)、2か月を経過した後は、年14.6%の延滞税が発生する。督促しても納税のできないときは、滞納処分となり、図表-1のような流れになる。

督促しても納税のできない時

差し押さえる財産の選択は、徴収職員の裁量によるが、次に掲げる事項に留意するものとする(徴基通47条17〉。

・第三者の権利を害することが少ない財産であること
・滞納者の生活の維持又は事業の継続に与える支障が少ない財産であること
・換価に便利な財産であること
・保管又は引揚げに便利な財産であること未分割の相続財産に預金債権があるときは、上記の観点から他の財産に優先して差し押さえるものと思われる。

②解決策
(1)申告期限までに納税資金が準備できなかった場合申告期限までに納税資金を準備できなかった場合

申告期限の翌日から2か月を経過した後は、年14.6%となる延滞税の負担が大きい。

この期間をできる限り少なくするためには、申告期限の翌日に督促状を発する処理がされることで、換価までの期間を短くすることができる(税務当局との事前の協議も考えられる)(図表-2)。

差押財産が預金債権であれば、2か月程度で納税が完了するケースもあると思われる。
スケジュール例

(2)金銭債権の払戻請求により納税資金を確保できる場合
預金債権は、銀行に対する可分債権(金銭債権)であり、相続の開始によりその債権は、法律上当然に分割され、各相続人がその相続分に応じて債権を取得し請求することができると最高裁で判示している(最判昭29.4.8)。

ただし、金融機関の実務では、相続人間の紛争に巻き込まれるリスクを回避するため、次のような一定の書類の提出を求めるケースが多い。

・遺産分割協議書
・金融機関の所定の書式による相続預金払戻請求書(実印の押印と印鑑証明書添付)

このような場合は、金融機関に対して金銭債権の払戻請求の訴訟を提起して払戻しを受けることになる。

【参考】配偶者が分割請求した場合の配偶者の税額軽減の適用の可否
相続人間での遺産分割の合意がなく、配偶者が金融機関に対し預金債権の払戻請求をした場合、相続税の申告期限までに実際に払戻しを受けていれば、配偶者がその金員を実効支配しているため、「分割されている財産」に該当し、配偶者の税額軽減の適用がある。

なお、申告期限後に金融機関から払戻しを受けた相続分相当の預金債権についても「分割されている財産」に該当する(平12.6.30裁決)。

また、上記(1)による滞納処分により国が配偶者の相続税相当額を未分割の相続財産から換価して納税に充当した場合も、その納税に相当する金額について、「分割されている財産」に該当し、配偶者の税額軽減の適用があるものと考えられる。

次のページへ